2015年5月12日(火)、13日(水)、エストニアのe-Governance Academyが主催してタリンで開かれるe-Governance カンファレンスの参加者を受付中です。会議ではイルヴェス大統領の基調講演のほか、電子政府のガバナンスについて下記のパネルディスカッション、幾つかのワークショップと懇親会が行われる予定です。
この会議の対象者は、「政府の意思決定者」「 電子政府の透明性や効果を支援する機関の関係者」「 電子政府のITソリューションを提供する企業関係者」ということなので、一般人向けではありません。
しかし、このような会議をホストすることで、エストニアは自国の経験を広く世界中の国々に提供する意思を持って実行しています。
その中核機関はe-Governance Academyです。そこでは、電子政府構築の基本となる法律の考え方をはじめ、制度面、技術面など広い分野で効果的なアドバイスとサポートを行っています。
e-Governance Academyは、 ホームページでその使命を以下のように述べています。
「政府の効率性を高めるために、指導者や関係者に対して情報通信技術(ICT)の指導を行い、オープンな情報社会の構築を目指して民主的なプロセスを改善したり助言すること使命とし、研究、研修、コンサルティング、ネットワーキングを通してそれを実行しています。」
e-Governance Academyの実践的なプログラムは多岐にわたります。以下、その一部をご紹介いたします。
中央電子政府プログラムは、電子政府を運用するにあたって技術面以外に政府指導者の意識とスキルを向上させます。プログラムは、電子政府の政策と計画の問題、組織や管理フレームワーク、法的規制、ICTシステムの予算編成、および相互運用性の基本的な概念に焦点を当てています。
その他のプログラムは以下のリンクをご参照ください。
e-Democracy
Local e-Government
ICT in Education
Cyber Security
M-governance
アフガニスタン、アルバニア、アンドラ、アルメニア、アゼルバイジャン、バーレーン、ボスニア·ヘルツェゴビナ、ブルガリア、カナダ、クロアチア、キューバ、グルジア、イギリス、ハイチ、インド、イラク、日本、カザフスタン、コソボ、キルギスタン、マケドニア、モルドバ、モンゴル、ナミビア、パキスタン、カタール、ロシア、セネガル、セルビア、スロベニア、スリランカ、タジキスタン、ウクライナ、ウズベキスタン、全部で50カ国以上。
以下はe-Governance Academyの活動を紹介した動画です。
What is e-Governance Academy? from e-Governance Academy on Vimeo.
e-Governance Academyは5日のスタディーツアーを行っています。誰でも受け付けてくれるわけではありませんが、ご興味があれば以下のリンクよりPDFパンフレットをダウンロードいただけます。
eGA brochure 2011.pdf
カンファレンスやスタディツアーご興味のある方は、e-Governance Academyに問い合わせてみてはいかがでしょうか。
もし日本語サポートのご要望がございましたら、お気軽にESTLANDINGまでお問い合わせください。
皆さんは電子署名の経験はありますか?
会社のグループウェアで稟議書に電子署名でサインしている方も結構いらっしゃると思います。使い始めるとかなり便利なので、手放せなくなっているのではないでしょうか。
エストニアの電子署名は2002年に電子署名法の施行によってスタートし、自筆のサインとIDカードによる電子署名が法的に同等の効力を持つことになりました。
ここで動画を見てみましょう。
いかがでしたか? かなり便利そうですよね。
動画にもありましたが、エストニアの電子署名システムは、エストニア以外の国からも使えます。もちろん日本からも。
2007年のサイバーテロ事件から8年目の今年、エストニアの電子社会は新たな段階に入りました。これまで磨いてきたセキュリティ技術を武器に自国のシステムをエストニア居住者以外にも提供することに決めたのです。
前回のブログ2015年のe-ESTONIAでIDカードの種類について紹介した中に、電子居住者(e-Resident)カードという項目があります。
e-Resident制度は、エストニアに居住していない外国人に対してインターネット上での使用に限定されたIDカードを発行し、エストニアの電子政府サービスや民間企業のサービスが受けられるようにするものです。
現在のところ使用可能なサービスは電子署名、電子納税、電子処方箋、DigiDocなどの電子政府サービスに限られていますが、今後オンラインバンキングなど民間サービスも含め、徐々に拡大されていく見通しです。
エストニアの電子政府サービスや民間サービスは、IDカードやモバイルIDを鍵とし、データー連携をX-Roadと呼ばれる共通基盤を使って行うことで、使いやすさと信頼性・安全性を両立させています。
X-Roadとは、公的機関および民間サービスのデータ連携を行う独立したサービスで、エストニア電子社会の共通基盤です。
エストニアでビジネス展開する際には、会社設立後にも様々な契約や申請の手続きを行うことになるでしょう。
これらの書類に担当者がその都度サインするのは大変です。ビジネスで世界中飛び回ることの多い人はなおさらです。 そんな時e-Residentカードがあれば、サインするのにエストニアにいる必要はありません。お好きな国でビジネスを継続できます。 また、相手を待たせることもないので取引先にも喜ばれます。
最後に、e-Residentカードの申請と受け取りの方法について説明します。 2015年2月現在、申請と受け取りまでの流れは以下の通りです。
備考
マイナンバーの導入に伴い、将来的には日本でも電子署名は普及すると思いますが、一足先にエストニアでその利便性を体験してみてはいかがでしょうか。
このブログは、日本の皆様にエストニアの「今」を知っていただくためのブログです。できる限り分かりやすく、タイムリーな内容を心がけて参りますので、どうかよろしくお願いいたします。
最初のトピックは、日本の皆様にとって関心の高いと思われる電子政府について、書いていきたいと思います。とはいえ、私自身は電子政府の専門家というわけではないので、技術的な話ではなく、すでに公開されている情報や独自に収集した情報を整理し、生活者視点で分かりやすくご紹介する程度に留まることをご容赦ください。
エストニアの電子社会は、1995年、エストニア語でTiigrihüpe(ティーグリヒュペ)と呼ばれるプロジェクトから始まったと言えるかもしれません。 Tiigrihüpeは、英語で「Tiger’s Leap」とも呼ばれています。日本語にすれば、「虎の跳躍」という意味ですが、以下、タイガーリープと表記したいと思います。
タイガーリープは、1996年、現在のエストニア大統領、トーマス・ヘンドリク・イルベス大統領(当時在アメリカ合衆国エストニア大使)によって提案されました。
1991年に独立を回復したエストニアですが、1996年当時は、ソ連崩壊による影響がまだ残っており、国民も政府も経済的に非常に厳しい時期でした。そういう困難な時期にあって、全国の学校をインターネットでつなぎ、当時まだ学校現場では主流だった8ビットコンピューターを新型マシンに置き換えるため、政府は翌年の97年、プロジェクトに予算を配分することを決定したのでした。
これがいかに大変な決断だったかというと、少し前の1995年にスタートしたe-Healthプロジェクトを知る方の話によれば、当時、全国の病院全体で使い物になるコンピューターが4台しかなかったそうです。そのような状況の中、全国の学校に新型のコンピュータとインターネットアクセスを配備しようという提案が通ったわけですから、それがどういうことか、おわかりでしょう?
「エストニアの将来を子供達に賭けたのです。」
そして10年後の2007年、エストニアは世界を驚かすことになります。
電子社会建設を進めていたエストニアにとって、インターネットは、社会インフラとして欠くことのできないものとなっていました。そんな中、2007年にその根幹を揺るがす事件が発生したのです。 ロシアからと思われる大規模サイバー攻撃でした。
事件については、こちらの記事が参考になります。
後に「世界初の大規模サイバーテロだった」と言われるような国の一大事でした。 その難局を、わずか人口130万人のエストニアで育った技術者達が自らの手で救ったのです。その事実に、アメリカをはじめEU各国の関係者も驚きました。北欧の小国に、極めて秀れた技術者達が存在したことに対してです。
事件の結果を受けて、2008年、エストニアのタリンにNATOのサイバーセキュリティセンターが設立されました。エストニアがその技術力と、高度な電子社会のモデルとして世界に認められた瞬間です。
現在サイバーセキュリティーセンターは、エストニアだけでなく、EUを始め、EUパートナー各国に対してサイバーセキュリティに関する専門知識の提供、教育、アドバイスなどを行っています。
2009年には、国際サイバー法の研究や教育をリードすることを目的としてセンターの所在地であるエストニアの首都、タリンの名前が冠された、“Tallinn Manual Process”が 策定され、主にサイバーセキュリティの実務家に向けて指針を公表しています。Tallinn Manual Processは、誰でも読むことができます。
もしタイガーリープがなかったら?
事件当時のセキュリティチームについて詳しくは知りません。しかし、当時を知る方の話によれば、エストニア人で構成されたセキュリティチームによる必死の防戦には、スペシャリストに混じって若い技術者達も活躍したことのことでした。その中に、タイガーリープで育った若者がいたことは、皆さん想像に難くないと思います。
もしあの事件で防御に成功していなければ、エストニアの電子社会は、今とは別の形になっていたかもしれません。
現在も続くプロジェクト
現在プロジェクトは、教育技術振興財団の運営するHITSAイノベーションセンターのプログラムの一部としてタイガーリープスクールとなり、名前やロゴが少し変わりました。しかし当時のビジョンは引き継がれ、今も変わらず未来のエストニアを担う子供達の教育に力を注ぎ続けています。
今後の予定
プロジェクトスタートから18年目の2015年、エストニアの電子社会はどうなっているのでしょうか。次回からは、エストニアの現在を見ていきたいと考えています。
エストニアでは、インターネットアクセスは一般的に基本的人権の一つと考えられており、法体系もそれを前提に電子社会に適応させてきています。例えば、2000年には電子署名法が成立し、2002年より運用が始まりました。この法律によって、デジタル署名が紙の書類への署名と同等の法的効力を持つことになりました。その結果、「インターネットがあればどこにいても署名できる」を実現し、官庁、議会、学校、企業、病院など、あらゆる場面で手続きの効率がアップしました。
世界的にみても先端的な電子社会を実現しているエストニアですが、デジタル署名の他にはどのようなサービスがあるのでしょうか。e-Estonia.comという政府機関の公式サイトで、その代表的なサービスを紹介しています。
これから数回に渡り、これらのサービスを見ていきたいと思います。
今回は、その中でも全てのサービスの前提となっているツール、「IDカード・デジタルIDカード・モバイルID」について見ていきましょう。
15歳以上のエストニア国民と永住者は、IDカードを持つことが義務付けられているカード。本人の写真がプリントされ、電子社会に暮らすエストニア国民にとって不可欠な大変重要なカード。
仕事の現場いでは、電子署名や各種サービスへのログインが頻繁に必要となる職務の方が多数おられます。そのようなシーンが多ければ、大切なIDカードの破損、紛失、盗難などのリスクも増えます。その際、リスクを軽減するために、機能限定版のIDカードとして、Digi-IDカード(有料)をIDカードとは別に持つことができます。 Digi-IDカードは、写真がプリントされておらず、目視による確認ができないため、身分証明証としての機能はありません。 あくまでも、電子署名やログインなど、オンラインでの使用に限定されています。
Digi-IDカードと同様の機能を持ち、携帯電話のSIMカードと一体化したモバイルID(有料)もIDカードと併用することができます。
モバイルIDは、カードリーダー不要、インターネットアクセス不要、SMSと同様に携帯電話の回線のみでOKです。端末もスマホに限らず、従来の携帯電話でも使えます。エストニアの国外にいても、ローミングの電波さえ入れば使えるので、個人的にもモバイルIDを併用しています。
申し込みと受け取りは、IDカードを持参して、携帯キャリアのショップで行います。
エストニアの短期居住許可を持つ外国人に対して発行されます。基本的にIDカードと同じ機能を持ちますが、アクセスできるサービスに一部制限されます。
2014年12月にスタートした新制度。非居住者の外国人を対象に発行されます。取得には特別な条件はなく、受付窓口でパスポート、写真、必要書類へを提出し、フィンガープリントの採取と50ユーロの手数料を支払えば申請完了。約2週間のバックグランドチェックの後、問題なければカードを受け取れます。
2015年1月現在、エストニア国内の窓口のみ受付及び受け取り可能。2015年春頃には、各国大使館で申請・受け取りができるように準備中。
機能は、電子署名、電子処方箋の受け取り、ビジネス関連の電子政府サービスへのアクセスに限られています。
また、居住許可が与えられるわけではないため、日本人の場合、e-Residentカードを持っていても、シェンゲン協定で定められた90日を越えて滞在することはできません。
e-resident cardの写真はこちら:Postimees
デジタル署名やオンラインバンキングを使用する際には、二つの暗証番号を用います。暗唱番号はIDカードの所有者が任意に変更できます。また、いずれの暗唱番号も、3回間違うとロックされます。
PINコード1
4桁から12桁の暗証番号で、主に各種サービスのログインに使用します。
PINコード2
5桁から12桁の暗証番号で、デジタル署名に使用します。手書きの署名と法的に同等の効力を持ちます。
ここで、実際にモバイルIDを使っている様子を動画で見てみましょう。
IDカードは、タイプによってアクセスできるサービスが異なります。参考までに、代表的なサービスへのアクセスの可否について比較しました。
以上、エストニアのIDカードについてご紹介しました。
次回は、電子署名について見ていきたいと思います。