エストニアを一言で表すとすれば「米百俵の精神を体現する国」
エストニアは、日本ではまだまだ知られていない、北ヨーロッパにある人口130万人あまりの小さな国です。人口が少ないというだけでなく、50年以上にわたってソ連に組み込まれたおかげで、社会資本の整備や産業面でも西側諸国に比べて非常に立ち遅れていました。そのような不利な状況にあって、近年、先端を行く電子政府やサイバーセキュリティ技術を活用した電子社会を構築し、世界から注目されています。また、ICT分野だけでなく、ナノテク、バイオテクノロジー、宇宙分野、防衛分野でも、世界で通用するスタートアップを次々と輩出しています。
日本と同様、少子高齢化の進む人口130万人の国で、なぜこのようなことが実現出来るのか不思議に思いませんか?
ここでは、日本人の視点で見て感じたエストニアの印象についてご紹介します。
それが少しでも日本の皆様の参考になり、エストニアと日本とのコラボレーションにつながればと思います。
エストニアは、連戦終結後の1991年、51年振りにソ連から独立を回復しました。
独立回復と時を同じくしてソ連もロシアに変わりましたが、そのロシアは、エストニアにある科学技術に関する施設や機材のほとんどを持ち去るか破壊しました。残ったのは、エストニア人科学者の頭脳と技術者のノウハウだけでした。しかし、それが後のエストニアに大きな影響を与えることになります。
91年の独立回復当時、エストニアにはお金が全くありませんでした。ルーブルが使えなくなり、国民は仕事、預金、年金のほとんどを失い、多くの人々が日々の食べ物にさえ困るほどの耐乏生活を強いられる状況に陥りました。それから数年間、エストニアはどん底の状況が続きます。そしてようやく社会が落ち着いてきた1997年、エストニアは「タイガーリープ」と呼ばれるデジタルリテラシーの教育プロジェクトに貴重な財源を振り向けたのです。これが電子社会建設の号砲となりました。ソ連時代から引き継がれた科学者の頭脳と技術者のノウハウを結集して国づくりを進めることにしたのです。
現在でもデジタルリテラシー教育、研究開発への投資は継続され、エストニアの発展を支えています。
このエストニアの決断を日本風に表現にすれば、「米百俵の精神が体現されている」となるのではないでしょうか。
また、少ない人口で成果を上げている別の理由として、エストニアが北欧型社会保障制度を取っていることや小さな政府を指向する政策も影響があると思います。
ご承知のように、北欧型社会保障は人件費に占める税金の割合が高いので、企業や政府もできるだけ少ない人数で回そうという力学が強く働きます。そのため、自ずと1人当たりの生産性を高める方向にならざるを得ません。
エストニアの人件費構造はこちら。
エストニアのやり方がすべてうまくいっているわけではありませんが、少ない人口でどのようにすれば成長を維持発展させられるのか、エストニアモデルは、日本、特に地方に対してヒントを提供できると思います。
エストニアモデルを経験するには、視察よりも何よりもエストニア企業と一緒に仕事をするのが一番です。一緒に仕事をすることでエストニアの企業文化に触れ、彼らのやり方を参考にできます。幸いエストニア企業は日本企業ウェルカムです。エストニア人自身、日本人に好感を持っていることが多いので、一緒に仕事をするのは難しい事ではありません。特に技術者は、新しもの好きですし、真面目で勤勉なタイプが多いので、結構気が合うと思います。恥ずかしがり屋な人が多いのも日本人に似ています。
エストニアの企業は、日本企業が世界展開するために必要となる機能やサービスを提供できるポテンシャルがあります。まずは小規模なパイロットプロジェクトなどを通じて、エストニア企業との連携を検討してみませんか。
新たなアイデアや世界展開のきっかけが生まれるかもしれません。また、エストニアだけでなく、ヨーロッパのビジネス文化や社会制度を経験する貴重な機会となるはずです。