2016年01月02日
前回に引き続き、タリンで開催中の鳥居禮作品展「伊勢の神宮」についてご紹介します。
今回の展覧会をエストニアのテレビ局が伝える
1:14あたりから鳥居さんがお話されています。
以下、パンフレットにある鳥居禮さんの紹介文を抜粋引用いたします。
鳥居禮氏は、日本の伝統的な精神性を現代的に表現しています。伝統的な精神性とは、仏教や漢字文化、儒学などが渡来する以前の純日本的な精神です。さらに、縄文時代の土器や、平安時代の大和絵からもインスピレーションを得ています。世界的なコンテンポラリーアートは、人間中心的なギリシア美術の流れを汲むものですが、鳥居氏は江戸時代以前の日本美術、ひいては日本文化の伝統全体が伝える人と自然の調和の精神を新しい感覚で表現し、コンテンポラリーアートを超える人類が本当に必要とするアートを創造しようと考えています。
鳥居氏の作品は、人と人、人と自然、地球と宇宙がそれぞれ調和して一つになり、暖かい幸福感で満たされる事を目的とするためのものです。日本では、これらの精神を神社や神官たちが太古より神道として伝えてきました。清らかさ、初々しさ、めでたさ、平明さ、素直さなどの具体的な美意識と祭という祈りの行為によって調和の心を表現します。鳥居氏の作品はすべてこの精神に基づいたまったく新しいアート分野といえるでしょう。
キュレーターさんにインタビュー
この展覧会について、筆者は今年の5月頃にキューレーターのTaimi Paves(タイミ パヴェス)さんから話を聞いていて、開催を大変楽しみにしていました。タイミさんは、筆者がエストニアに来て初めて知り合いになった方で、以来、エストニアの文化について時々お話を聞かせていただいています。今回は、そのタイミさんご本人に、エストニアと日本の文化交流の歴史、今回の展覧会開催までの経緯などをお聞きしました。タイミさんは日本語が大変流暢なので、インタビューはすべて日本語で行いました。
ーーエストニアと日本との文化交流はどのように始まったのですか?
タイミ:今から15年ほど前の2000年、その時は初めて協力して日本の二人の書道家、鈴木春潮さん、師田久子さんのデモンストレーションを開催しました。その前は書道の紹介は一つも無かったと思います。全く初めて。その時私も初めて日本の美術に感動できました。そのプロジェクトは本当にみなさんのおかげで成功でした。
実は今までも鈴木さん、師田さんと年賀状とか毎年交換します。 国際交流基金のイベントでは、同じ人が同じ国へ2回目はなかなか行くことができないですが、その二人はほんとうに素晴らしく、エストニアとの交流ができて、二人はエストニアが好きになって2回目のイベントにも来ました。2005年に二人とも。そしてだんだんいろんな他のアーティストのプロジェクトも開催して、日本とエストニア国立美術館との信頼関係がだんだん深くなってきました。
2009年には、仏教画家、畠中光享氏の個展が開催され、エストニアで初めての日本画展となりました。そのときは畠中氏の講演会もあり、自然素材だけを使った日本独自の絵の具や日本画の画法についてのお話は大変おもしろく、興味深いものでした。
ーー今回のプロジェクトは、いつ頃スタートしたのでしょうか?
タイミ:2012年にスタートしました。そのきっかけは、私自身が鳥居さんにあるメールを出したことに始まります。
ーーどんなきっかけでメールを出されたのですか?
タイミ:私の知り合いが「ホツマツタエ」という日本の古代文字に興味を持っており、私もその調査を手伝っていてインターネットで調べていたところ、鳥居禮さんのホームページを見つけました。それで鳥居さんが日本画家であることがわかり、作品を見て興味を持ちました。それで鳥居さんのほうでも興味があれば、エストニアで展覧会出来ないかとメールを書きました。
ーーとても不思議なきっかけですね。鳥居さんとは、その後どのような形で交流されたのですか?
タイミ:幸いにも鳥居さんから返事があり、エストニアに興味を持っていただくことができていろんな資料を送っていただきました。
鳥居さんは、いろんなスタイルやトピックを描きますが、私とほかのキュレーターさんと一緒に展示を希望する作品を決めました。美術館の館長さんとも話をして、2015年2016年で美術館が使える期間があって、是非鳥居さんに作品展を開催したいと交渉しました。
それで去年は国際交流基金に申請書を書きました。作品はとても貴重なものですから、保険とかいろいろ、輸送もちゃんとやらなければいけませんので、それを書いていて。そして日本へ行きました。鳥居さんの工房をたずねて、いろいろ細かいことを確認しました。そのときは伊勢神宮にも行きました。
ーーなぜ伊勢神宮に行くことになったのですか?
タイミ:たまたま私たちが展示を希望する作品の一部が伊勢神宮のもの(収蔵品)でした。そのことを私たちは知りませんでした。それに、エストニアでは神道の話、神道に関係するものを全然誰も見てないとわかっていたので、そのテーマが一番面白いと思いました。
それと神道の背景としての伊勢神宮に行きたかった。それは、鳥居さんがどころからインスピレーションをもらうか知りたかったからです。そしてご親切にも、鳥居さんは伊勢神宮のせんぐう館の専門家である深田さんにアポイントメントを取ってくださいました。
深田さんは、とても親切に展示の案内や説明をしていただきました。見学のあとで深田さんに展覧会のご協力をお願いしましたところ、その時の深田さんは、丁寧に、もちろん楽しみにしていますとおしゃいました。しかし、その時私たちはそれがほとんど不可能であることを知りませんでした。
次の日、私たちは神宮禰宜の宮嶋さんに内宮を案内していただきました。宮嶋さんは、伊勢神宮についていろいろ詳しく説明してくださり、さらに2013年の秋に新しく完成した正宮を見せていただきました。私たちが訪れたのは遷宮から1年後だったのですが、そこはまだとても輝いていて綺麗で、、、。
それから白い石でおおわれている場所、御敷地と言われています。その場所まで案内していただきました。とても感動しました、、、ほんとうに。
あと五十鈴川です。大変美しくて特別なところ。本当に全部の環境が美しくて。あと、私だけでではなくて、もう一人のキュレーターや動向したエストニア人の方たちもそう感じていました。
ーーたいへん感動的な旅だった様子が伝わってきます。ところで、絵の方はどうなりましたか?
タイミ:レンタルは大変難しいということがわかったのですが、それでも鳥居さんに是非是非お願いしたいと。それで鳥居さんはいろいろ手紙を準備して。
私たちは国立美術館の方からのお願いですね。それを準備して。
当時の城内実外務副大臣も推薦状を書いてくださいました。
それで鳥居さんを通じて伊勢神宮にお願いしました。彼は大変親しい関係があるので、この展覧会が実現しました。最終的に貸し出しが了承されたのは、2015年の4月から5月にかけてのことです。
ーードラマチックな展開です。それから展覧会まではどうでしたか?
タイミ:日本とエストニアのやりとりは言葉の問題がありますので、それが大変でした。展覧会初日の10日前には絵が到着しましたが、諸々の準備が整ったのはぎりぎりでした。
ーーもしよろしければ、鳥居さんのプロフィールやお会いした時のエピソードなどについてご紹介いただけないでしょうか。
タイミ:鳥居さんは大学を卒業後はまず仏教を研究して、その後さらに時代を遡って神道、古代文字にその関心の幅を広げられたと伺っています。2014年には鳥居さんのご自宅に招かれて、ご自身が作られた大変すばらしい庭園を見せていただきました。
今回の展覧会に合わせて初めてエストニアをご訪問いただき、エストニアの画廊、オープンエアミュージアム(エストニアの伝統的な古い住居が移築展示されている)などをご案内しました。そこにある古い建物が神道の建築に似ているということで。美術館、KUMU(エストニア国立美術館)も見て、いろんな画廊も回って。もちろん、展覧会の準備が忙しかったですが、今後もエストニアとの交流を続けたいとおっしゃってくださいました。
左:タイミ パベスさん 右:筆者
次回は、エストニアの人々になぜ神道や伊勢神宮に興味を持つ人が多いのか、その理由についてさらにお話をお聞きしていきたいと思います。