タリン旧市街にあるAdamson-Eric美術館で、11月6日より日本画であり神道画家としても活躍されている鳥居禮氏の作品展「伊勢の神宮」が開催されています。
鳥居禮氏について
鳥居禮氏は、1952年に生まれ、1974年に武蔵美術大学を卒業しました。30年にわたり日本伝統文化及び著作家として活躍しています。伊勢神宮との関わりも深く、30数枚の作品が伊勢神宮やせんぐう館に収蔵されています。2008年より第62回伊勢神宮式年遷宮の諸祭画の制作が開始され、2012年に30点の作品が完成し、せんぐう館に収められました。そのシリーズの一部(14点)は今回の展覧会で紹介されています。---公式パンフレットより---
鳥居禮展:Adamson-Eric Museum
会場に入ると、まず最初にスサノオノミコトに出迎えられます。そしてヤマトタケルノミコト、オオナムチノミコト(オオクニヌシノミコト)と続きます。そして様々な儀式の様子が描かれた絵を見ていくことになります。
会場には雅楽流れ、その音に包まれながら絵を見ているうちに、会場に漂う木の香りに気づきます。絵を見ると、額縁が白木でできたシンプルな木枠になっていて、装飾も塗装も全くありません。その白木から漂う木の香り、絵を通して目に入ってくる質素かつ繊細な造形、祭祀装束の白と黒、そして鮮やかな赤と青、温かみを感じさせる金色の空気感、緑深い杜、それらが一体となって伊勢神宮の雰囲気を五感を通して伝えてきます。
作品の多くは端正で精緻。杜の深緑色と金色コントラストが印象に残りました。その他に、“富士の祭”と“紅葉の踊り”という作品は画風が異なっていて、とても華やかで楽しげな絵です。春の訪れや実りの秋の嬉しい様子が感じられます。
展示も終盤に近づいたころ、窓際に置かれた榊、紙垂を見ることになります。榊や紙垂は、日本人にとってはいつも身近にあるものです。エストニアで暮らす筆者にとっても、日本の日常にある伝統的な風景を思い出させてくれるものでした。
また、地下フロアにある展示室では遷宮の様子を収めた映像を見ることができます。これは深夜に始まる“遷御の儀”、そのあとに行われる“川原大祓の儀”の様子を撮影した大変貴重な映像もありました。そのような映像を、エストニアの古い街にある石造りの建物の中で観ると、なんとも不思議な感覚に包まれます。
エストニアで伊勢神宮の収蔵作品を見ることができるとは思ってもみませんでした。それにしても伊勢神宮はよく絵を貸し出したと思います。それを考えると展覧会を実現するまで関係者のご苦労は大変だったことでしょう。ぜひこの機会に、エストニアに来られた多くの日本の方にAdamson-Eric Museumに足を運んでいただければと思います。
次回は、今回の展示会のキュレーターを務めたTaimi Pavesさんにお話をお聞きすることができましたので、展覧会実現までの経緯をレポートします。